原田のゴミタメ。

私が語ることは、すべて接頭に「私にとって」が与えられねばならない。我儘で、自分勝手で、醜く幼い私の誇大妄想。私的な論理の飛躍は決して万人に敷衍されてはならないが、万人が私の妄想を否定したとき、もはや私には生きる必要がないと思われる。せつに、そう思うのである。

雑文で発表したのをもう一つ。

こっちはまだ完成前。

胸糞な駄文。

 

ここから。

 

わるもの

 

あるところに、わるものと云うものがいた。
わるものは、わるものであるゆえに、人の不幸を好んだ。
どうしようもない苦境にある人間を眺めることは、わるものの生きる糧である。
美味しいものをほおばりながら、人間の嘆き戸惑うさまを眺めることのなんとたのしいことか。
わるものは、日々手ごろな人間を見つけては、その人間が沈んでいくのを眺め、ニンマリとするのであった。

 

Sという学生がいた。
Sは進学後、環境になじめず、不本意ながら孤立の道を歩んでいた。
Sの学生生活を包むものは漠然とした、しかし強烈な「なんか違う」という感覚である。
この拭いされぬ異質感によって、見学にこぎつけたどのサークルにも結局属さず、ひたすら「虚無」と形容するにふさわしい日常を過ごしていた。
わるものは、このSという学生に狙いを定めた。

 

Sの生活はわるものの欲を程よく満たした。
Sの、惰性で講義を受ける鬱々としたさまや、周囲の和気あいあいとした雰囲気にささやかな敵意を向けて昼食をとるさまは、ハタから見て大変滑稽であり、わるものはいびつな地顔をニッコリとゆがませ、自身は優雅にチョコクロワッサンを齧るなどして、それはそれは楽しく鑑賞していた。
Sは卑屈をムネとし、表面上はオリコウであるが、内面は周囲に対して斜に構えるようなきらいがあり、その性格ゆえの孤立が、わるものにとっては滑稽で滑稽でしかたがないのである。

 

ある時、Sは夜の繁華街に出かけた。
Sが所属する大学は、そこそこな都市の中心に位置しており、少し足を延ばせば「眠らない」などと形容される、にぎやかな繁華街に迷い込む。
なぜSが一人出かけたのかは、わるものにはわからなかった。
ひょっとすると、虚無にまみれた学生を食らう、山椒魚にまつわるとるにたらない噂を聞いて、自分を変えようと一念発起したのかもしれぬ。
しかしそんなくだらない理由など、己の欲得を行動原理とするわるものには興味のないものであった。
どこか厭世的な雰囲気を醸し出そうと滑稽な努力を重ねたのち、意を決したように居室を飛び出すSの姿を見て、わるものは今にも笑い出しそうになるのをこらえて後に続いた。


夜の繁華街。
そこは、想像以上に華やかで、眩しく、混沌とし、絢爛をまき散らす電飾は、人々をして一種幻想的な感想を与えておきながら、一方で漠然とした現実感をも焼き付ける、わけのわからぬ極楽であった。
道行く人々はみな正気を失ったような笑顔を浮かべ、踊り狂い、蛍光色の路面電車が縦断する小路の隅の暗がりにはみすぼらしいなりの人々が身を寄せる。
幸不幸が互いに極値を取って爆散し、わるものの糧がいたるところに充満していた。
当のわるものは、マクドナルドの二階窓側に陣取り、ナゲットをぱくつきながら、狂喜の群衆のただなかに一人立つSを観察している。
もはや人と人との区別もつかぬ群衆のただなかに、一人ぽつんと立つSの姿は、いびつに目立っていた。
そのSの狼狽ぶりときたら。
周囲を神経質に、そして不安げに見渡し、苦笑いと困惑とをないまぜにした表情で、輝く人々にもまれ、半ば窒息したように喘ぐさまは、必死にあがいて傷口を広げる下手な役者のようで、大変に醜くかった。
「ひえーっ!ひゃはははははははははははははは!」
わるものは、人目をはばからずに大爆笑。
アハハ、かっこわりい。見ろよ、まだ斜に構えようとしてやんの。
 へへへ、今にも泣きそうだぜ。こりゃあ傑作だ。
 
 笑い疲れたわるものは、Sをもっと滑稽に踊らせてやろうと考えた。
 恐らくあいつは自分の醜さを誰よりも心得ているだろう。
あれだ、人に責められる前に自虐しようって言うバカな思想だ。
そんなあいつに、まさにあいつの耳元で、「客観的な」蔑みと嘲笑を浴びせてやったらどうなるだろ?
想像するだけで面白い!
ぶっ壊れちまうんじゃないかしら!
ばーーんと発狂したりして!
ううふ、ふふふふ!
わるものは、いてもたってもいられず、残ったナゲットを大きな口に放り込むと、疾風のごとく往来に飛び出した。
ふらつくSに駆け寄り、背をつかみ、思いっきりがなり立てる。

 

よお、ぼっち!
いんやあ、お前もなんだかんだ、楽でいーよなー!
醜い醜いって嘆いてりゃあ誰かが「カワイソウ」って気にかけてくれるんだもんなあ。
卑屈をまとってりゃ心配してくれるんだろうからなあ。
そうやって、斜に構えてりゃあ、まるで才能かなにかがあるように感じるんだもんなあ。
自分を傷つけてりゃあ、みんな気にかけてくれるんだもんなあ。
そうだよなあ。そのとーりだよなあ。
ははは!
馬鹿じゃねえの!
そんなもん、そんな下らねえもん、あるわけねえじゃん!
それこそ自己満足だーっ!
くだらねえくだらねえくだらねえ。
そりゃあただのピエロだぜ。
まあそんなことを言ってもお前は開き直って、「僕はピエロですw」なんて自虐的に言いふらしてよぉ、みんなにかまってもらえるように媚びるんだ。自分を傷つけているアピールをするんだ。
馬鹿じゃねえの。
人並みに生きたいなんて言いながら、そのくせ何の努力もせずに人より偉くなれると思ってんだろ。思いたいんだろ!
卑屈卑屈といいながら、そのくせそれがかっこいいと思ってんだろ。
結局なんも変わってねえじゃん。
薄っぺらい、きたねえ仮面を別の下らねえ仮面に取り換えただけじゃねえか。
馬鹿じゃねえの。
くっだらねえ!はははははは!
お前のやることなすこと、一から十まで胸糞わりいんだ。
とがるでもなく丸まるでもなく。
もやもやとはぐらかしやがって。
たいして人のことも考えてねえくせに、「とりあえず」お行儀よくしてんだろ。
怖いだけなんだろうが。おっくびょうもの!
ばっかじゃねえの。
もう笑えるぜ。笑ってるけど!ひゃははは!
何を話していいかわからない?失礼に当たるかもしれない?
嘘つけ。ばーかバーカ!
めんどくせえだけだろ正直に言えやバーカ。
くっっっっっっっっっっだらねえ。ははははははははははははははは!

 

はははは。は?
わるものは笑うのをやめた。
目の前のSが、ただニッコリと微笑んでいたためである。
それはなんとも生気に欠けた、オニンギョウのような微笑みであった。
ゆすってみたが、反応はない。
ただニコニコとしている。
おもんな。
高ぶる興奮が一気に冷めたわるものは、
遊びに飽きた子猫のように、ぽーんとSを突き飛ばしたのち、
群衆の中に溶けていった。

 


[自己評]
深夜テンションで仕上げた、徹底的に胸糞な駄文であります。
終盤の、えぐるようにがなり立てるシーン、草稿は前からあったのですが、これを何らかの作品にしてみたいと思ったのが執筆動機であります。
ですから、それ以外の部分は、正直付属品のような感覚で書きました。

よく見たら(見なくても)草稿部分もかなりの駄文ですが。
(夜の繁華街の辺りは「群衆の人」をイメージしたのですが、似ても似つかないものになり果ててしまいました。)
読みづらかったらごめんなさい。
では、おやすみなさい。

 

ここまで。

 

おしまい。