「友達と飲み歩いたり、女を抱いたり、笑ったりするのは構わないよ。でもそれは「それなり」な人間の特権だと思うんだ。絶え間ない努力によってずば抜けて勉強のできる奴がいたとしたら、そいつこそがそういう幸福や歓楽を堂々と享受すべきで、そうでない下等な人間は、それこそ質素に生きるべきなんだ。だのに世間では全然質素じゃない、華美で不真面目で、はたから見れば下衆極まりない奴ばかりが連日飲み歩き、友と笑い、女にもてる。こんな理不尽があっていいのか?」
「確かにそうかもしれないわね。
うん。
勉学に邁進して素晴らしい知見を得ている人がいるのなら、なるほど彼にはぜひとも交友や恋愛にも同じくらい情熱を出してもらって、貴方の言うような報われた生活を享受して欲しいものだわ。
けれどもそれがどうしたっていうの?
「だからぼくは勉強に集中していればいい。遊び歩いているやつは皆間違っていて、責められこそすれ憧れの対象となるべきではなくて、愚直に努力している奴のみが称えられるべきだ」とでもいうつもり?
そうやって自分を弁護するつもりなら、お角違いもいいところよ。
勉強することと、友達をつくったり恋をしたりすること。いいえ、恋だなんて純粋なものでなくても、単に女を抱くことでもいい。とにかく、そこには取り上げるべき関係なんて全くないのよ。とても頭が良くて、かつ友達も多くて立派な恋人もいる。そういう人を、私は何人も知っているし、頭が良くなくっても、充実した毎日を送っている人だってたくさんいる。そして私は彼らを責める気なんて微塵もない。
あのね、勉強だけが努力じゃないのよ。確かにあなたの云う「お勉強」はあからさまに努力してますって感じだけれど、世の中には数え切れないほどの努力の形がある。遊び歩き飲み歩き、挙句女を抱きまっくて云々と貴方は言うけれど、それだってその人の一面にすぎないわ。日中はバイトや、あるいはそれこそ勉学に邁進して、人間関係に気を配って、更に女の子に振り向いてもらえるように頑張った成果がそれかもしれないだけでしょう?
何が「質素に生きるべき」よ。
じゃあ貴方自身はどうだっていうの?
そうやって文句を垂れるに値するほどの努力をしているの?
勉強勉強、努力努力言うけれど、実際貴方は何かしているの?
これだけははっきり言うけれど、ただ苦しむことは努力でも何でもないのよ。
苦しいのがわかっているのに、それを何とかしようともせず、ただグダグダ言うだけなら、
そうね、それこそ黙って質素に生きるべきだわ。
勝手にどこかに隠遁して、独りで生きればいいじゃない。
申し訳ないけれど、見ていて不快だわ。たいして格好よくもなくせに、そして偏狭な努力ばかりを称賛して、自分では何にもしないくせに、そうやって幸せな人たちを妬むのは。
それに、たとえ何かしらで努力をしていたとしても、誰かを貶すことは正当化されないのよ。
何が「下等な人間」よ。
そう言うのだったら、貴方のほうが、遊び歩く人たちよりもずっとずっと下等な人間よ。
何が「下衆」よ。
そう言うのだったら、貴方のほうが、たくさんの女の子にモテる人よりもはるかに下衆だわ。
どうしたの?押し黙って。
悔しかったら何か言ってごらんなさいよ。
言わないと何も伝わらないし、行動しないと何も変わらないのよ。
ましてや幸せなんて、それに見合った努力をしないと望むべくもないのよ。
「ただ勉強していればいい」だなんて、甘えるにもほどがあるわね。
勉学すら怠っている貴方には、関係のない話かもしれないけれど」
付記。
醜人を貶すのは異常なほど簡単である。
彼の醜い点をあげつらい、主張するまでもない常識をさも意外な事実のようにぶつけるだけで、彼を全否定することができるのだ。
故にそれは、醜く愚かな弱者に対する罪深い蛮行に他ならない。